パレット
 全体的にしっかりと撮影がされている。学校だけでなく、河原のシーン、河原を走る人々、その町に生きている人物が収められており、主人公の生活している場所を描けている。レナが佇む夜の河原のシーンは音も含めとても良く、彼女のいる場所、というものを強く感じた。主人公のキャラクターや表情などはいいものの、何を思わせているのか、表情から読み取れないものをどうセリフで補うか、が課題になっている。短編映画としての物語の帰結がわかりにくいのは惜しい。ホラーなのか?ドラマなのか?持って行きたい物語の展開、雰囲気への演出が上手くいっていないのが残念。重要なキャラクターであるレナも、より印象づけるためのセリフ、仕草が必要だと感じた。

Wake up
 50 分の尺で作る内容としては大変に厳しい。物語においてどれが重要であるかを考えず、物語を考えた分だけただ撮ってつなげているという印象。基本的にディテールをしっかり作ろうとしていない。悪い意味で学生映画。学生映画の劇中で学生映画を作っているというメタ視点を使っていると考えれば面白いが、内輪ネタが多く、作者の考える面白さについて行き辛い。ほぼ狭い教室内で展開するにもかかわらず、役者をきちんと動かせていない、撮り方も狭苦しさを感じる。どのセリフが重要なのか、面白いのか、音楽で全て解決しようとしてしまっている。課題は多いが、映画を撮りたいというエネルギーは感じる。考えついたネタを映画として見せ切るにはまだまだ技術、演出力が必要。それぞれ向上して作品を作り続けてほしい。

愛のかたち
 主人公あずの冒頭の現状に満足していない表情、はなに会ったあとの生き生きとした表情など対比が良い。細かく表情を演出しようとしている印象はある。しかし、後半の展開についていけない。重要なあずの本性というものが突然で、そのための筋作り、またはその後の反転した状況というものをじっくり考え、見せるべき。あずの受けているストレスをしっかり描けていれば、はなへの反動も見やすかった。SNS に翻弄される若者や、同性愛への感情など、物語において重要であるならより丁寧に描くべき。受け取ってほしい展開と、実際に見えているものにズレがあるが、そのズレをなくしていければより面白くなるはず。

99
 セットの小道具、部屋の装飾、など大変こだわって作られている。作品の雰囲気が統一されていてとても見やすく、撮影もかっこ良い。少し残念なのが、ボーカルも含め登場する三人の女性の印象があまり変わらないこと。三人中二人が赤い衣装を着てしまっていて混乱してしまう。違いがはっきりしないと、物語が見えづらい。また、終盤一人の女性が髪を結うという演出をしたにもかかわらず、最後に戻してしまったのが惜しい。

Stare Free
 手を離す、左右へ別れて歩く、という描写から、袂を分かった二人だという事を読み取れるが、踊っている女性と一人嘆いてる女性との関係が分かりにくい。ほぼ表情が変わらず、かといって晴れやかでもないダンサーと、少し過剰に苦悩する女性の表情と、正反対でもない二人の女性のアンバランスさが目立つ。それぞれの感情を際立たせて演出してほしい。黑い服の彼女に対してダンサーがどういった立ち位置なのか、二人とも悩んでいるのか、一人は晴れやかに踊れるのか、物語はよく分からない。ダンサーのロケーション、風でなびく木々などはとても良い。ただ、音楽の荘厳さとダンスのタイミングがあまりあってない印象。ダイナミックな動きに対しての固定カメラは勿体無さを感じた。

REAL /UNREAL
 ⻘いノイズの走るブラウン管テレビに寄って行き、全画面にノイズが走ったかと思えば、 一旦下がってしまったのはなぜだろう?後ろに見える壁の掲示や反射する非常ランプがテレビとの距離感、その部屋自体を感じさせる。そこにはテレビという媒体がある。街の写真や映像の合間にこの部屋に戻される。そのテレビを見ているという体であれば、同じサイズに写真や映像をはめるか、テレビのノイズ映像を全画面にして合間に挟むべきなのではと思うが。テレビとの距離感を持った映像が、挟まれる映像や写真よりもテレビを見ているという行為を感じてしまうのであれば、どちらにせよ投影された映像でしかないものにリアルとアンリアルの差を感じさせていることに成功しているかもしれない。3 分という短い時間に収めるならば、導入のテレビノイズの映像は少し⻑いのではないかと感じる。⻑尺のものも見てみたい。

The hall of nirvana
 まず自分の世界観をしっかりと作れていることが素晴らしい。持てる映像技術、またイラストまでも使い、完全に作者の世界に浸ることができる。音のない世界の悩める女の子、ノイズ音の乗る光の少ない世界の女の子、機械に読み上げられるセリフ。二人のことを理解はできないがただ二人を見ろという強い画力がある。それぞれのカットがじっくりと⻑いものの、見入ってしまう。鏡の中の自分と繋がった後のこちらへの振り返りや、突然現れる両手など、要所要所でどきりとさせられる演出も良い。これだけのシンプルさで、嫌悪感、おぞましさまでも表現し、完全に現実感のない別次元のおとぎ話を作ることができている。

【講評者】

中川奈月

立教大学文学部を卒業後、ニューシネマワークショップへ入学し映画制作を始める。その後、立教大学大学院映像身体学研究科へ入学、修了作品『彼女はひとり』はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードを受賞。卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科へ入学、実習作品『投影』がイランのファジル映画祭で上映された。現在、黒澤清氏、諏訪敦彦氏に師事。